設計ミスで炎上!?システム設計に潜む“あるあるミス”と回避法7選

目次

システム開発の成功を左右する「設計」の重要性

システム開発における「設計」は、建築で言えば“設計図”にあたる極めて重要な工程です。要件を正しく捉え、構造的に整理された設計がなければ、どんなに優れた技術者が開発を行っても、最終的に使いづらい、拡張性のない、あるいはそもそも動かないシステムが出来上がってしまいます。

実際、プロジェクトが炎上する原因の多くは、コーディングではなく設計段階に潜む“初期ミス”にあることが少なくありません。開発途中で要件の見落としが発覚したり、設計の想定が甘くて想定外の改修が必要になったり。こうした“設計のゆがみ”は、後工程になるほど手遅れになりやすく、開発工数やコストに大きな影響を及ぼします。

なぜ“設計ミス”が炎上の火種になるのか?

たとえば、ある中規模の業務システム開発で、「想定ユーザー数が100名」とされた設計が、リリース直前になって実は「同時接続500名が必要」だったと発覚し、急遽インフラとアーキテクチャを見直すことに。結果的に2か月の遅延と数百万円の追加コストが発生した・・・という事例もあります。

こうしたトラブルは、誰か特定の人が悪いというよりも、「ありがちな設計ミスのパターンを知らなかった」「気をつけるポイントが共有されていなかった」ことに起因しています。

よくある設計ミスから、その実践的な回避法を解説

本記事では、システム設計における“あるあるミス”を7つのパターンに分類し、それぞれの背景や原因、そして具体的な回避法をわかりやすく解説します。

「開発で同じような問題を繰り返している…」
「設計レビューで何を見ればいいかわからない…」
「もっと質の高い設計ができるようになりたい!」

そんな悩みを抱えるエンジニアやプロジェクトマネージャーの方にとって、明日から実践できる“設計ミス予防のヒント”となる内容をお届けします。

“ITに関わるすべての人が、よりスムーズで、価値あるシステム開発に取り組むために”

まずは、「失敗から学ぶ設計の視点」を一緒に見ていきましょう。

システム開発における設計ミスは、単なる技術的な失敗にとどまらず、プロジェクト全体、ひいてはビジネスそのものに重大なダメージを与えかねません。特に近年、開発スピードやユーザー体験の質がビジネス成果に直結する時代では、その影響はより深刻になっています。

プロジェクト遅延・コスト増加・信頼喪失の三重苦

たとえば、システムの設計段階で「外部連携仕様が曖昧だった」ことにより、開発終盤になってインターフェース設計の抜け漏れが発覚。急遽API仕様を見直し、他社との連携調整が発生した結果、2か月のリリース遅延追加工数によるコスト増加が発生。さらにクライアントからは「なぜこんな初歩的な見落としが?」と信頼を損ねた・・・というケースは珍しくありません。

一つの設計ミスが連鎖的に他の工程へ波及し、納期・予算・信頼という三つの軸を揃って揺るがすことがあるのです。

「1バグ10倍の法則」に見る、初期ミスの致命性

ソフトウェア工学ではよく「1バグ10倍の法則(Rule of Ten)」と呼ばれる原則があります。これは「バグや設計ミスは、後工程になるほど修正コストが10倍になる」というもので、以下のようなイメージです:

工程修正コストの相対値
要件定義・設計1倍
実装・単体テスト10倍
総合テスト・受入100倍
リリース後1000倍

初期の設計で防げるはずだったミスが、リリース後に発覚してから対応するとなると、金銭的コストだけでなく、ブランドイメージや顧客満足度に甚大な影響を及ぼす可能性もあるのです。

理論的根拠

この法則の背後には以下のような理論的根拠があります。

1. 複雑性の増大

開発が進むにつれて、コードベースは複雑化し、相互依存関係が増えていきます。後工程でバグを修正する場合、関連する多くのコンポーネントや機能に影響を与える可能性が高くなり、修正範囲が広がります。

2. デバッグの難易度

バグが作り込まれた時点から時間が経過するほど、そのバグのコンテキストを理解するのが難しくなります。コードを書いた開発者が異動していたり、詳細な設計意図が忘れられていたりすると、デバッグの難易度が上がります。

3. 波及効果

後工程になるほど、バグの影響が他の領域に波及している可能性が高まります。一つのバグの修正が他の部分に新たな問題を引き起こす「副作用」のリスクも増大します。

4. 資源投入のコスト増大

後工程では、テスト環境の構築、回帰テストの実施、ドキュメントの更新など、バグ修正に伴う付随作業が増えます。特にリリース後の修正では、パッチ配布やユーザーサポートなど、追加的なコストが発生します。

実務的意義:

この法則の最も重要な実務的意義は、「シフトレフト」という考え方です。つまり、品質保証活動をできるだけ開発の早い段階(左側)に移動させ、早期にバグを発見・修正することで、全体的な開発コストを削減するという戦略です。

具体的には、以下のような施策が重要になります。

  • 要件定義・設計段階でのレビューの徹底
  • 静的解析ツールの導入
  • 単体テストの強化と自動化
  • 継続的インテグレーション・継続的デリバリー(CI/CD)の導入
  • フィードバックベースのファジングテストなどの早期セキュリティテスト

「1バグ10倍の法則」は、ソフトウェア開発における品質保証の重要性と、早期のバグ発見・修正がもたらす大きなコスト削減効果を示す重要な経験則です。この法則を理解し適用することで、開発チームは効率的なリソース配分を行い、高品質なソフトウェアをより低コストで提供することが可能になります。

出典:10のルール:開発コストを削減する方法

ビジネスへのインパクト:ユーザー体験と保守性の低下

設計ミスは、開発チーム内の課題にとどまらず、エンドユーザーの体験そのものを損なう危険もあります。

  • ユーザーインターフェースの設計が不十分で、使い勝手の悪いシステムになってしまった
  • パフォーマンス要件を見誤り、アクセス集中時に処理落ちしてしまった
  • 拡張性を考慮せず作られたため、新しい機能追加に都度リファクタリングが必要になり、保守に時間を取られる

こうした「設計段階の判断ミス」は、目には見えづらいが継続的に企業活動に影響を与える“負債”となり得ます。

設計は“見えない価値”を生み出す工程であり、そのミスは“後から高くつく代償”となります。だからこそ、設計段階での気づきと予防が、最もコスパの良いリスクヘッジなのです。

次章では、実際に現場で頻出する「あるある設計ミス」の具体例とその回避法を、7つのパターンに分けて紹介していきます。

設計ミスと一口に言っても、その原因は多岐にわたり、しかも一見すると“地味”で“些細”なものが多いのが実情です。しかし、「設計の小さな判断ミスが、やがてシステム全体の品質や開発効率、ひいてはビジネスの成否を左右する」というのは、エンジニアの間ではもはや共通認識。

ここでは、システム設計の現場でよくある失敗パターン7つを厳選し、それぞれに対する実践的な回避法を紹介します。

①要件の読み違い・曖昧な理解

あるあるシーン

クライアントが「複数ユーザーでの同時利用を想定している」と言っていたが、設計者は「最大3人程度だろう」と勝手に解釈。結果、同時接続数が想定を超えてシステムがダウン。

回避法
  • 関係者とのすり合わせを徹底(ファシリテーション力)
  • 要件定義書に“あえて書かれていないこと”まで明文化
  • 「言われたこと」だけでなく「本質的にやりたいこと」を引き出すビジネススキルが重要

②非機能要件(性能・可用性・拡張性など)の軽視

あるあるシーン

機能的には満点のシステムだが、ピークタイムにレスポンスが2秒超え。ユーザーから「遅い!」とクレーム続出。初期設計ではNFR(非機能要件)を定義していなかった。

回避法
  • 非機能要件を明文化し、早期の設計段階で反映
  • キャパシティプランニングスケーラビリティ設計も初期から組み込む
  • 可用性や保守性を考慮した設計は、将来の変化にも強いシステムを作る鍵

③ユースケースや業務フローを無視した設計

あるあるシーン

現場では「紙の伝票」を参照しながら入力している業務なのに、システムではそれを想定していない画面遷移設計。結局「使いにくい」と放置され、現場は旧システムを使い続ける羽目に。

回避法
  • 現場ヒアリングの実施(現地・現物・現人)
  • 業務フロー図(As-Is/To-Be)を設計に反映
  • ユースケースは“紙の上の設計”ではなく、現場のリアルな業務視点でとらえる

④再利用性を無視した過剰なカスタマイズ設計

あるあるシーン

特定の顧客要望に応えようと、コードに条件分岐が乱立。数ヶ月後には「似たような機能があちこちに散在」し、誰も手をつけられないカオス状態に。

回避法
  • 共通部品化・コンポーネント化のルールを明確に
  • 設計段階で「この処理は再利用できるか?」の観点を持つ
  • 設計レビューで「過剰な個別対応になっていないか」を定期的にチェック

⑤データ設計の不整合(正規化ミス・命名揺れ)

あるあるシーン

顧客テーブルと注文テーブルで「ID」の意味が異なる(顧客ID vs 商品ID)にもかかわらず命名が同じ。

回避法
  • ER図のレビュー会を必ず実施
  • 命名ルール・正規化ルールをプロジェクトで標準化
  • 一般的なデータベース設計のパターン(データの分割方法や一意のキーの設定など)を、チーム内で共有しておく

⑥設計ドキュメントの属人化/更新漏れ

あるあるシーン

設計書がGoogle Driveの奥深くにひっそりと存在。しかも最後の更新は半年前。現場では「設計書は信用できない」と誰も見なくなる。

回避法
  • ドキュメント管理の運用ルールを標準化(フォルダ構成、命名、更新頻度)
  • NotionやConfluenceなどの情報共有ツールを活用
  • “ドキュメントはプロジェクトの資産”という意識を全員に浸透させる

⑦テスト観点の欠如

あるあるシーン

設計時には考慮していなかったエラーパターンや境界値が、テスト段階で次々に露呈。結果、設計を一部見直し、スケジュールが1週間ずれ込む。

回避法
  • 設計時からテスト容易性(テスタビリティ)を意識
  • テストを先に書いてから開発を進める「TDD(テスト駆動開発)」や「BDD(ビヘイビア駆動開発)」を取り入れることで、テスト項目と仕様を一致させやすくなる
  • 品質を支えるのは、“テストしやすい設計”という考え方

設計力とは単にシステムの構造を決めるスキルだけではなく、「考えを構造化し、複雑な要素を整理しながら、問題解決へと導く力」そのものです。つまりこれは、エンジニアリングだけでなく、ビジネスやキャリア全般においても再現性の高い“汎用スキル”であり、長期的に見て大きな“資産”になります。

設計力がある人=信頼される・チームを動かせる人材に

設計力がある人は、プロジェクトにおける“道しるべ”のような存在になります。

  • 要件を整理できる → 顧客と会話が噛み合う
  • システム構成を明快に示せる → チームに方向性を与えられる
  • レビューで論点を抽出できる → 若手の育成にも貢献できる

設計者は、いわば開発とビジネスの橋渡し役

そのため設計スキルの高い人は、エンジニアチームの中だけでなく、顧客や他部署からも信頼されやすくなり、自然とリーダー的ポジションに立つことが増えます。

ビジネスでも活かせる「構造化思考」「問題解決力」との関連性

実は、設計のプロセスはビジネスの課題解決プロセスとよく似ています。

  • 要件を分解する → 課題の細分化
  • 関連性を洗い出す → 因果関係の把握
  • 優先順位をつける → リソース配分の最適化
  • 再利用を意識する → 再現性ある仕組み化

つまり、設計力とは「構造化思考(ロジカルシンキング)×実装力」の掛け合わせ。

ビジネススキルで言えば、戦略立案、資料作成、意思決定サポート、プロジェクト推進などあらゆる場面で活きてくるスキルです。

経験の積み上げ方と、振り返り・学びの習慣化(キャリア観点)

設計力は一朝一夕で身につくものではありません。しかし、意識的に経験を積み、学びを定着させることで確実に伸ばすことができます。

設計力を高める具体的なアクション例

  1. 他人の設計書を読む・レビューに参加する:様々な観点や癖を知り、自分の視野が広がる
  2. 設計時の意図を記録に残す(設計コメント・Wikiなど):後から振り返る際に学び直しやすい
  3. “設計ミスあるある”を自分の経験にひもづけて整理する:「次はやらない」を積み重ねることで差がつく
  4. 実運用で得られた学びをフィードバックする文化を作る:振り返りを「個人の成長」から「チームの資産」へ昇華させる

設計は、プロジェクトが終わった時点での完成度だけでなく、「次の設計に活かせるかどうか」がとても重要です。その意味で設計力とは、経験を抽象化し、再利用する力でもあります。

「設計ができる=技術力が高い」というのは半分正解ですが、実際にはそれ以上に「チームを導き、問題解決の起点となれる力」があるということ。

設計力を高めることは、技術職にとってのキャリアパスを広げるだけでなく、“ビジネスを動かす力”や“人から信頼される力”の源泉となります。

炎上案件を未然に防ぎたい方、今よりもう一段階成長したいと考えている方は、ぜひ日々の設計の中に「学び」と「振り返り」の視点を取り入れてみてください。

設計とは、“アート”であり“科学”

“ロジカルに積み上げる「科学的な思考プロセス」に加え、状況に応じた柔軟な判断や、ユーザー目線の気配りといった「創造的なセンス」が求められる”

それがシステム設計という仕事の奥深さであり、面白さです。

設計ミスを防ぐには「技術+スキル+習慣」がカギ

今回ご紹介した7つの“あるあるミス”は、どれもプロジェクトの現場で実際に起きているものばかり。

どれだけ技術力があっても、ヒューマンスキルや設計プロセスの意識が伴わなければ、炎上リスクはゼロにはなりません。

逆に言えば、ミスを減らす鍵は「技術力」だけではなく、「ビジネススキル」「チーム運営の工夫」「日々の設計習慣」にあります。

  • 要件を“正しく”聞く力
  • 現場を“深く”理解する姿勢
  • ミスを“構造的”に減らす仕組み

この3つの視点をもって設計に取り組むことで、設計品質は驚くほど変わります。

あなたの設計は、次の炎上を防げていますか?

“プロジェクトの成功は、「良い設計」にかかっている”

そう言っても過言ではありません。

技術は日々進化し、開発手法も次々とアップデートされていきます。そんな変化の激しい現場で、「設計」という軸を磨き続けることは、どんな時代でも通用する確かな武器になります。

“あなたの設計は、次の炎上を防げる設計になっていますか?”

その問いへの答えを自信をもって「YES」と言えるよう、今日からできる小さな設計改善を、ぜひあなたの現場でも始めてみましょう!

以上、「設計ミスで炎上!?システム設計に潜む“あるあるミス”と回避法7選」の話題でした。